やる気が遺伝子を呼び起こす
オリンピックを見て一喜一憂しながら、たびたび考えたことがある。それは、環境が変わっただけで、人の能力には変化が訪れるものなんだなあ、という感慨である。
環境の変化で分かりやすいのは、外国に行ってしまうことで、ことに運動選手の場合は顕著である。
日本ではもう使えなくなったような野球選手が、アメリカに行って思いがけない活躍をすることがあるが、それも環境の変化がもたらした効果だ。今年引退声明を出した野茂英雄投手は、近鉄を出るときは契約問題で我儘をいったようにとられ、その年が不調だったこともあって、あの投法が大リーグで通用するわけがない、と陰口を叩
かれたものだが、その後、アメリカ中を興奮の渦に巻き込む活躍をした。彼に続いた日本人プロ野球選手も同様だ。
ただし、逆の例もある。日本で敵なしだったジャンボ尾崎は、アメリカに行くと、意気消沈してしまって、日本にいるときの実力がまったく出せなかった。反対に青木功の場合は、外国に行くと、その地で生まれ育ったように溌剌としていた。この人の場合は今でもそれは変わらない。
こういった運動選手の変化は、環境が変わることによって、それまで眠っていた遺伝子が「ON」になった効果の現れであるという。
これはバイオテクノロジーの権威である村上和雄氏の意見だが、なるほどと頷かされる言葉である。人間の身体には60兆の細胞があり、そのひとつひとつに同じ遺伝子が組み込まれているという。その遺伝子が実際に働いているのは5%程度であり、あとは眠っている。それを起こす役目のひとつが、環境を変えることなのだ。
それによってやる気がでたり、気合いが入ったりして、眠っていた遺伝子に灯りがともり、本人の潜在能力が活発に働き出すという。これは環境だけでなく、考え方を変えるだけで、遺伝子はどうのようにでも動く。
たとえば、戦う相手を見て、負けるかもしれない、と思った瞬間、その選手は負ける。それまで働いていた遺伝子が「OFF」状態になってしまうからだ。反対に、「面白い試合になりそうだ。なんだかワクワクしてきたぞ」と思った選手は思いがけない勝利を得る。5%しか起きていなかった能力をもった遺伝子が10%になったら、当然力は倍増する。
これは火事場の馬鹿力にも通じることなのだろう。死んでたまるか、生きてやる、という強い思いが、力持ちの遺伝子を叩き起こし、すさまじいエネルギーを呼び起こすからだ。私は子供のころ、火事になった八百屋の奥から、いつもは腰の曲がってよぼよぼしていた老婆が、鬼のような形相で和箪笥をかついで表に出てきたのを見たことがある。
この遺伝子を起こす方法は、環境の変化を待つまでもなく、自分でコントロールできるはずだ。否定的なことは考えず、いいことだけを考えるようにすればいいのだ。よくプラス思考でいこう、そうすれば運がよくなる、ということを得意になっていっている人がいるが、プラス思考なんていう曖昧な言葉でなく、自分の胸に感動の嵐を巻き起こせがいいのである。すると、すべての流れが自分の思う方向に流れ出す。村上和雄氏の著作はいろいろな人に感銘を与えるだろう。
なでしこジャパンは、それぞれの胸に灯ったやる気がチーム全体の遺伝子の目を覚ました。見ていただけの私も幸せになれた。勇気を、ありがとう。
(記事:2008年8月)

